株式会社KADOKAWAが展開する「出版製造流通DXプロジェクト」は、持続可能な出版業界の実現を目指し、本の生産から流通までの仕組みをデジタル技術によって革新する取り組みです。このプロジェクトは、2013年から始まり、埼玉県所沢市にあるデジタル製造・物流施設を拠点に進められています。目指すのは「必要な本を、必要な人に、必要な時に」届けること。このビジョンのもと、KADOKAWAは2025年1月までにデジタル製造書籍の累計部数が3000万部を超える見込みで、2024年度の年間生産部数は850万部に達する予定です。
プロジェクトの背景
日本の従来の出版業界では、大量製造・見込み出荷によって多くの書籍が過剰在庫を抱える傾向があり、これに伴う返品や廃棄が大きな問題とされています。また、電子書籍の台頭や資材費の高騰といった環境変化も影響を及ぼしています。こうした課題を克服するため、「出版製造流通DXプロジェクト」が立ち上げられました。このプロジェクトにより、流通の効率化が図られ、業界全体が持続可能なビジネスモデルへとシフトすることが期待されています。
KADOKAWAの事業戦略
KADOKAWAは、多様な知的財産を世界に展開し、収益源の多角化を図る「グローバル・メディアミックス with Technology」を基本戦略として推進しています。この中で、特に国内紙書籍事業は重要な位置を占めます。「出版製造流通DXプロジェクト」では、最新のテクノロジーを用いて製造・物流の自動化を進め、より効率的な業務運営を実現します。
DXプロジェクトの具体的施策
このプロジェクトは「BEC(Big ECosystem)プロジェクト」として位置づけられ、営業、製造、物流の連携を踏まえた新たなエコシステムを構築します。書店がタブレット端末から直接オーダーできる「DOT(Direct Order Tablet)」や、在庫が一定水準を下回った際に自動的に発注・出荷される「自動追送」システムの導入によって、書店とKADOKAWAの情報共有が促進されます。また、デジタル製造施設を活用し、小部数単位での補充重版や突発的な需要に迅速に対応する体制が整えられます。
プロジェクトの成果
これまでの成果として、返品率は業界平均よりもかなり低い26.8%を記録しており、さらなる低減も目指しています。また、書店への配送は、発注から24~72時間以内に実現することが多く、顧客満足の向上につながっています。これにより、売り逃しの防止や利益率の向上を果たし、読者のニーズに応じたコンテンツ供給の持続可能性を確保します。
デジタル製造施設の強み
KADOKAWAのデジタル製造施設「BECファクトリー」は、2018年から試験的な運用を開始し、2020年にフル稼働しています。この施設では、従来のオフセット印刷に比べ、100部からの少部数製造が可能で、急速な市場のニーズに応じた生産体制を実現しました。また、品質の高い製品を忠実に再現することができるため、特にコミックス製造においても成功を収めています。
今後の展望
KADOKAWAのChief Operating Officer 村川忍さんはこのプロジェクトの重要性を強調し、業界全体における流通活性化への寄与を確認しています。今後も「出版製造流通DXプロジェクト」を更に進化させ、資材や森林資源の有効活用を目指しながら、持続可能な出版業界を実現していく意向を示しています。KADOKAWAは、今後も出版業界の課題を解決するために、デジタル技術を駆使して取り組み続ける姿勢を貫いていきます。