近年、岡山大学の研究チームが食道がんの患者における抗がん剤治療中の栄養状態と歯科的因子の関連に関する新たな知見を発表しました。研究によると、手術前の抗がん剤治療を受ける患者において、かみ合っている奥歯の数が多いほど、驚くことに栄養状態が悪化する傾向があることがわかりました。これは、既存の考え方とは逆の結果であり、さらなる詳細な検証が求められている状況です。
この研究では、岡山大学病院の歯科及び消化管外科の専門家たちが共同で食道がん患者77名を対象に行った後ろ向き研究がもとになっています。研究チームは、予後推定栄養指数(PNI)の変化と患者のかみ合わせの状況を詳細に観察し、かみ合っている奥歯の数が多いグループにおいてPNIが有意に低下することを確認しました。
興味深いことに、奥歯のかみ合わせに関する問題がある患者は、抗がん剤治療前から歯科的もしくは栄養の専門家による早期介入が行われており、結果として栄養状態が守られていることが判明しています。つまり、かみ合っている奥歯の数が多い患者はその状況に対して十分な介入が行われていないために悪化が進むと考えられます。この発見は、抗がん剤治療を受ける全ての患者に対して、歯科や栄養の専門家チームが早期から介入することの重要性を示唆しています。
研究をリードした山中玲子助教は、従来の予測とは異なる結果が出たことに驚きつつも、患者の治療方針に影響を与える可能性のあるこの知見を評価しています。山中助教によれば、かみ合っている奥歯の数が少ない患者は、抗がん剤治療前から専門家のサポートを受けていたため、栄養状態の維持に成功していると考えられます。
この研究の結果は、疼痛や体重減少の軽減という観点からも重要であり、他の医療機関でもこのアプローチが採用されつつあります。
オープンアクセスの形式で発表されたこの研究の詳細は、国際的な栄養学雑誌「Nutrients」にも掲載されています。岡山大学の取り組みは、今後の食道がん患者に対する新たな医療方針や栄養管理の方針を考え直すきっかけとなることでしょう。
今回の研究は、岡山大学が推進する地域中核・特色ある研究大学強化事業の一環であり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)への貢献を目指しています。研究の進展が期待される中、ますます多くの患者が早期介入の恩恵を受けることができるようになることを願っています。