線虫の塩味好みを逆転させる神経回路を解明
岡山大学と室蘭工業大学の共同研究によって、注目すべき成果が得られました。研究内容は、線虫(C. elegans)が環境塩濃度を記憶し、その記憶によって塩味の好みを逆転させるしくみです。特に、塩濃度の記憶がいかに神経回路によって操られているかが、シミュレーション実験を通じて明らかになりました。
餌と塩濃度の関連性
線虫は、餌とともに育てられた環境塩濃度に依存し、その塩濃度を好む特徴があります。具体的には、高塩濃度で育った線虫は塩味を好み、逆に低塩濃度で育った線虫は塩味を嫌います。この特性は、線虫の生存戦略においても重要な役割を果たしていると考えられます。
シナプス可塑性の新たな見解
同研究では、神経回路モデルを用いて、塩味の好みが逆転するメカニズムを解明しました。線虫の塩走性において、感覚ニューロンが塩濃度を検知し、介在ニューロンとの間のシナプス結合特性が反転するという新たなシナプス可塑性が観測されました。これは、従来のヒトを含む哺乳類で見られる長期増強や長期抑圧とは異なるものです。これまでにないタイプのシナプス可塑性が線虫の行動にどのように影響を与えているのかが、理解されつつあります。
研究の進展と期待される応用
この研究の進展は、種を超えて観測される文脈依存的な行動の制御に関する神経回路の理解を深める基盤となります。さらには記憶や学習がどのように神経系によって実現されているのかを解明する可能性があり、今後の生物科学のみならず、医学や心理学の分野にも貢献することが期待されています。
岡山大学に在籍する大学院生の弘中誠勝さんと、室蘭工業大学の墨智成教授が手掛けたこの研究は、2025年2月に国際科学雑誌「eLife」に掲載されました。研究資金は、両備檉園記念財団の生物学研究助成金および科学研究費助成事業から得られています。
まとめ
この研究は、線虫が塩味の好みを逆転させるための神経回路に新たな視点を与え、今後の生物学的な理解を深める重要な成果となります。詳細なメカニズムの解明は、学習や記憶に関する新しい知識の獲得に寄与することでしょう。興味のある方はぜひ、岡山大学や室蘭工業大学の研究室の情報をチェックしてみてください。